正統派アイドルの定義がなにかと問われると答えるのは難しいけれど、ひとつ条件をあげるとするならば、どんなに歌がヘタであっても、笑顔で歌いきれるかどうかではないだろうか。
その点でいえば大場久美子は、正統派アイドルとしてふさわしいヒトだ。さらに大場久美子よりも歌がヘタな正統派アイドルって誰かいただろうかと思い出してみると、あるひとりのヒトが浮上した。
そうだ。能瀬慶子だ。あのTBSのドラマ「赤い嵐(1979年)」に出ていた。このドラマは大映ドラマといって、特徴としてとにかく出演者の演技が臭かった。あの石立鉄男も大映ドラマの常連だった。
赤い嵐から波及した能瀬慶子のセリフで、よくみんなギャグにしていたのが、
「ここはどこ?わたしは誰?」
だった。これは当時の子どもは誰もが一回はマネしたことがあるのではなかろうか。
ちなみに高校時代よく柴田恭兵のモノマネをよくやっていたのだが、いちばん同級生にウケたのは、「関係ないね!」でも、「行くぜ!」でもなく、「しのぶちゃん!」だった。
「しのぶちゃん!」というのは、赤い嵐に主人公として出ていたカレのセリフである。そしてその”しのぶちゃん”が能瀬慶子だったのだ。このふたりの演技の臭さは同じ大映ドラマ「スチュワーデス物語」よりも、ある意味インパクトが強かった。
能瀬慶子はその後1983年に20歳で引退。正統派アイドルとしてぶりっこを演じきった松田聖子や、正統派アイドルとは一線を画した中森明菜と入れかわるかのようであった。
でもアイドルとして素敵な笑顔でいられるというのは、ひとつの才能だ。そういう意味でしのぶちゃん…じゃなかった能瀬慶子は、大きな才能をもった正統派のアイドルであった。
今日のところはこれまで。ごきげんよう。この呼吸が続く限り、僕は君の傍にいる。