プロレスラーの《強さ》には、勝負に勝つための強さとはまた違う強さがあると思われる。
それは相手の強さを引き出すための、肉体の強さである。これがないレスラーが一流レスラーと戦っても、つまらない凡戦になってしまう。力では負けても、力のある相手の必殺技までも見事に受け切るレスラーは貴重だ。
その点でいえばもうこの人なのである。大熊元司という男。みてほしい。この男の厚みのある体を。そして太い眉に、もみあげをのばした野武士のような風貌。絵になる。この男こそスタン・ハンセンの強さをアピールするに相応しい。
一流レスラーであるスタン・ハンセンの技を受け続け、それでも体全体で時には反撃し、最後はハンセンの必殺技ウエスタンラリアートを出させる。5分ほどの試合だが、観客を納得させるには十分である。
大熊元司が亡くなってから早い者で30年が経つ。自分も歳を取ったせいか大熊元司がバリバリ活躍していたころを思い出してしみじみとする。いま思い出すと、ただ負けたわけではない。その日のイベント全体を、そしてプロレスそのものを盛り上げるための《強い》男であったのだ。
今日のところはこれまで。ごきげんよう。この呼吸が続く限り、僕は君のそばにいる。