KOTOBASM

頭の中にある思想は言葉ではない。映像でもない。いうなれば《もやもや》である。その《もやもや》を手先を使って記録することではじめて言葉になる。

金賢姫

 先日、TBSの特番「テレビ史を揺るがせた100の重大ニュース」を観ていたら、1987年に起きた大韓航空機爆破事件の犯人、金賢姫の密着取材をやっていた。もうあの事件から30年近く経つのだなあと感慨深く観ていた。

大韓航空機爆破事件

 当時、彼女は25歳。逮捕されて韓国の空港に降り立ったときに、口になにか白いものを貼っていた姿がとても印象深かったのを覚えている。あれは舌を噛んで自殺しないようにしていたのだが、なにせ初めて見るので異様さが際立っていた。

 北朝鮮は翌年に開かれるソウルオリンピックを妨害しようとしてあの爆破事件を起こしたとのことだが、本当ならあまりにも浅はかというか単純というか。亡くなったヒトや家族は本当にやり切れない。

 現在、彼女は53歳で韓国のソウルで暮らしている。逮捕当時の捜査官と結婚して2児の母となっているらしい。今も外出の際は5人の護衛がついている。ちなみにそのうちの一人は彼女の旦那さんである。北朝鮮からの報復をおそれてとは言っていたが、実際は違うだろう。

 彼女への憎しみの強さは、北朝鮮よりもむしろ遺族のほうが強いのではないだろうか。家族を失った上、おそらく補償すらしてもらえないような状況で、それなのに金賢姫は恩赦され今では家庭を築いている。そんな金賢姫をせめてこの手で葬りたいと考えるのは当然だろう。

 自分だったらやるな。阻まれる可能性が高くても家族を殺されたら。北朝鮮の損害の比ではないもの。失ったものの大きさは。北朝鮮は誰かが殺されたわけじゃないもの。そう考えると今回の映像は非常に残酷に感じた。